十勝自然保護協会会長安藤御史
大雪と石狩の自然を守る会代表寺島一男
北海道自然保護協会会長佐藤 謙
北海道自然保護連合代表寺島一男
ナキウサギふぁんくらぶ代表市川利美
国際自然保護連合・生態系管理委員会
東アジア地区副委員長河野昭一
日本環境法律家連盟理事市川守弘

十勝東部森林管理署管内における伐採についての申入れ

このたび林野庁の今年度の伐採計画を入手したところ、十勝東部森林管理署で天然林から5万立方メートルもの伐採を計画していることを知りました。この伐採量は北海道では突出したものとなっています。

このため十勝自然保護協会は、十勝東部森林管理署に伐採計画についての説明を求め、さる8月22日に話し合いの機会をもちました。そこで明らかになったことは、伐採に当たりナキウサギやクマゲラといった希少な野生動物について事前に生息状況を把握していないことであり、特異な生態系をなす風穴地帯が所管地内に存在するという事実を認識していないということでした。

今日、環境問題は人類にとって喫緊の課題となっています。このためわが国は、1993年に生物多様性条約締約国となりました。生物多様性条約は、生物の多様性の保全、つまり生態系や生息地を保全することを目的としています(同条約第1条)。わが国がこの条約を締約したということは、行政にとって生態系や生息地の保全が責務になったということであり、自然保護の枠組みのなかで開発行為をしなければならないということを意味します。

同条約第6条は、生物の多様性を保全するため、国家的な戦略あるいは計画を作成することと、部門別あるいは部門にまたがる計画や政策に生物の多様性の保全を組み入れることを義務づけています。このため政府は1995年に生物多様性国家戦略を、2002年に新・生物多様性国家戦略を策定しました。国家の一部門である林野行政においても1996年に林野庁から「自然保護等公益的機能の発揮をめざした森林施業の推進について」との通達が出され、2001年にこれまでの林業基本法を変えて森林・林業基本法を制定し、その第二条に自然環境の保全を規定しました。そして新・生物多様性国家戦略では「国有林においては、野生動植物の生息・生育環境の保全等自然環境の維持・形成に配慮した適切な森林施業を推進する」と明記しています。

このような生物多様性保全の潮流を踏まえ、貴職に以下の申入れをいたします。

  1. 今次計画されている伐採量は、森林の持続的利用を不能とする恐れが極めて高く、また土砂流出などの災害防止や水源涵養の観点から非常に大きな懸念が生じることから伐採計画を抜本的に再検討すること
  2. ナキウサギ生息地を確認し、ナキウサギ生息地及びその周辺での伐採を中止すること
  3. 猛禽類をはじめとするレッドリストに掲載された絶滅危惧生物の生息状況を事前に把握し、生息地を保全するための対応をすること
  4. クマゲラの採餌木および営巣可能木を含む生息環境全体を保全すること
  5. エゾマツは、北海道の針葉樹林の重要な構成要素であり、かつ更新が難しい樹種であることからエゾマツの伐採を根本的に見直すこと
  6. 特異な生態系をなす風穴地帯での伐採を中止すること。このことに関し指摘しておかなければならないのは、過去に喜登牛山山頂付近の風穴地帯で伐採ならびに林道開削が行われ、この特異な生態系が大規模に撹乱された事実です。この風穴地では伐採してそれほど経過していないと思われる1993年には、林床はミズゴケ類や地衣類に覆われ、多数の高山性あるいは周極分布すると考えられるクモ類が確認されていました。しかしその後ミズゴケ類・地衣類などは枯死し、極めて特異で貴重な生態系が破壊されてしまいました。このような国民の財産を失わせる愚行を繰り返してはなりません(写真添付)。

以上の申入れに対する貴職の見解を9月末日までに書面で送付してください。なお、貴職からの回答は報道機関にも公開し、十勝自然保護協会のホームページにも掲載いたしますことを申し添えます。

回答送付先
080-0101 北海道河東郡音更町大通10丁目5番地
佐藤与志松方 十勝自然保護協会 Tel& Fax 0155-42-2192

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