日本森林系保護ネットワーク代表 河野昭一
事務局長 市川守弘
十勝自然保護協会 共同代表
安藤御史・松田まゆみ・佐藤与志松
ナキウサギふぁんくらぶ代表 市川利美

2010年8月4日、音更町福祉センターにおいて、北海道開発局帯広開発建設部(以下開発建設部)と十勝自然保護協会・ナキウサギふぁんくらぶ・日本森林生態系保護ネットワーク等(以下NGO側)が、美蔓ダムに関する説明、交渉会をもった。

開発建設部による、6月21日付農水大臣宛要望書に対する回答に対して、NGO側から、費用対効果やナキウサギの生息環境に与える影響等、事業の当否に関わる本質的な質問がなされたが、データを当日用意していないなどの理由から回答が先延ばしとされた問題が多々あった。

このため、本質問書により、あらためて開発建設部ひいては北海道開発局に対して質問をするものである。


<1> ダムの必要性及び費用対効果について


1 美生ダムへの反省

(質問者は芽室町民)美生ダムでは完成後に、帯広開発建設部の職員からダムの目的はなくなったと説明された。600億円も費用をかけ、町も27億円負担していたが、完成後は本来の目的に使われず家畜の飲み水、機械の洗浄等に使われるのみである。美蔓ダム建設にあたり、美生ダムの計画及び結果についての事後的にモニタリングや検証をし、それをこの事業に生かしているか

2 水需要の見込み

計画変更により受益者が306人から215人に減少し、貯水量は340万?から30万?(当初の約9%)に減少している。牧草地、畑のそれぞれにおいて、1ヘクタールあたりどれだけの水が必要であると想定しているのか。

3 水の具体的な必要性

地域の営農方針を踏まえて、地域農業のために、ダム(貯水池)による水は具体的にどのような必要性があるのか。収益があがる根拠はなにか。

費用対効果の算出基礎データを明らかにした上で、上記につき、各作物ごとに具体的に説明することを求める。

4 肥培灌漑の需要

費用対効果の数値は1.04と算出されている。これは、全受益地においてダム(灌漑)の水を利用することを前提に算出されている。すなわち、(全受益面積の単収増による年利益、+作付け面積の増加による年利益)×41年÷事業費=1.04とされている。

開発建設部は同意書が100%出ていることをもって、全受益農家がダムの水を利用すると断定し、そのことをもってダムの必要性があるとし、他方、個々の受益農家がスプリンクラー、自走式散水機など高額な投資をして灌漑用水を使うかどうかは知らないし、知る必要もないと回答した。

また、北海道の資料(添付)によると、受益面積の約50%を占める牧草地の肥培灌漑について、「堆肥舎の整備が進んでいるから、肥培灌漑のための配水調整槽の造成実施にあたっては、既存の堆肥舎の利用実態や利用計画を把握の上、今後、施設規模につき、適切な調整を行う」とある。

開発建設部は既存の堆肥舎の利用実態や利用計画を把握しているといえるか。既存の堆肥舎の利用実態や利用計画を把握した結果、肥培灌漑のための配水調整槽の造成規模が縮小されることがありうるのであれば、当初より、上記検討をした上で事業の費用対効果を算定すべきではないか。ダム(灌漑施設)を造ったあとで、肥培灌漑の規模を小さくして利用するのは本末転倒ではないか。

5 道の関連事業の見込み

北海道が行う関連事業が完成しなければ、美蔓の灌漑事業は意味がないものとなるが、北海道がいつ頃までにどのような関連事業を行うのか把握しているのか。また、継続的に協議しているのか。把握しているとすれば、その内容はどういう事業内容なのか

鹿追町で建設中の受水層のシートの単価はいくらか。


<2> ナキウサギ生息地の破壊について


1   ナキウサギへの影響が最も大きい地域から工事をなぜ急ぐのか

開発建設部は、ナキウサギへの影響が大きく懸念される地域で工事を優先させて実施している理由を、工期が2年かかるため先駆けて実施する必要があったと説明している。

しかし、現在、予算上からも全体の工期が延長されている以上、ミニシールド工法の工事を率先して終わらせる理由はないのではないか。にもかかわらず強行するのは、問題があるところの工事を早く終わらせることによって反対の声を沈静化させることが目的ではないか

このような意図で破壊を急ぐことは、北海道開発局にとって、「自然破壊の開発者」というレッテルが永久的に貼られることになり、開発局の事業に対する世論の支持を得られなくなるのではないか。

2   ミニシールド工法がナキウサギに及ぼす影響

  1. 掘削に伴う騒音、振動の具体的な数値を教えてほしい。メーカーに問い合わせるとわかるであろう。

  2. その数値がナキウサギに対して影響がないといえる根拠はなにか

    ミニシールド工法が都市部の地下鉄などに使われ人間への影響が少ないと言われていることは、ナキウサギへの影響が少ないことの説明にはならない。
    野生動物への影響としては、超音波による影響も含めて、人間に対する場合とは異なる生態的、生理的な影響が考えられる。特にナキウサギはストレスや騒音、振動に弱いとされている。影響がないことの根拠を具体的なデータで示してほしい
  3. ナキウサギに精通している有識者は上記1)2)のデータに基づき、検討したのか。
    仮にこのようなデータがないままにミニシールド工法を肯定したとすると、その判断はおよそ科学的とは言えないのではないか

  4. そのような具体的なデータなくしてなされた開発建設部の結論は、自然環境に最大限(できる限り?)配慮するという開発局の方針にも反するのではないか

  5. ミニシールド工法では、ナキウサギの痕跡が多数確認され、「風穴」の存在も確認されているP2エリアの地下を掘削して導水管が通過する。平成18年度の調査では地質専門家の現地調査を受け風穴を調査したが、その結果、「本地点の十勝溶結凝灰岩は、少なくとも河床付近までは分布しており、その下底付近までが緩んでいることが推定されている。この推定が正しければ、風穴は河床以上の標高の斜面に広く分布する可能性がある」とされている。導水管が風穴及びナキウサギの生息に及ぼす影響は検討したのか

  6. 地下にトンネル(口径1200mmの穴を680m)を掘ることにより、地下水脈を切断しないとは限らないのではないか。「切断がないとは言えないができるだけ軽減する」という回答だったが、地下水脈切断の影響は、一帯の乾燥化をもたらし、森林、河川の生態系に多大な影響をもたらす。できるだけの軽減では不十分ではないか。自然環境へのできるだけの配慮をしていることにならないのではないか。

3   ナキウサギの定着

この時期(6月、7月)のナキウサギへの影響の配慮はあるのかという質問に対しては、「この地域にナキウサギは定着していない」から、出産、子育てなどへの配慮は不要であるという驚くべき回答だった。

  1. そもそも「一時的利用」と「定着」の定義はなにかを説明されたい。

  2. 「定着個体がいない」という根拠はなにか

    例えば、平成13年度の報告書(平成14年3月)では、秋に調査した結果から、「夏季調査で除去した一時的貯食が、夏季確認地点と同じ場所に、新たに貯食されていた。また、ペンケニコロ川では、本格的な貯食に近い、草本の溜め込みが確認された」と結論付けている(88頁)。

    さらに平成15年調査では、7・8月の調査において、9km地点で、単音鳴き2回、連続声を5回を確認し、また、痕跡調査でも、7.5km付近及び9km付近で、糞や多くの貯食を確認したことから、その「考察」において、7月調査では「一時貯食のみの確認で、「生息するとは判断できなかった」が、「8月調査では、起点から6.7〜7km区間及び8〜9km区間の林道周辺において、本種が利用している明らかな痕跡が確認された。」特に8〜9km地点では、「ガレ場がこの周辺に散在しており、生息基盤は脆弱であるものの、生息可能な範囲であると考えられる。ただし、生息する個体数は極めて少ないと考えられる。」と結論している。すなわち生息を認めているのである。

    また、平成16年度においても、9月に鳴き声や複数の痕跡を確認し、その「考察」において、「本地区に生息する個体は非常に少ないと考えられる」と結論付けている。

    さらに、9.0km地点では、「このエリアの生息個体は、単独の可能性も考えられる。」と、単独もしくは複数の生息を認めているのである。

    また、平成18年度の報告書においても、「本年の調査ではペンケニコロベツ林道沿線で、分散的に生息痕跡が確認される特定哺乳類の生息は明らかではあるが、その個体数や、各地点の繋がり、周年行動などは不明のままである。

    このように、調査を継続する中で、生息は明らかであると確認してきたにも関わらず、定着個体はいないとする根拠はなにか

  3. この地域に定着個体がいないというのであれば、この地域のナキウサギの活動はどのように評価しているのか

    周辺の安定した生息地で越冬した後、春の繁殖期に、定着メスがいないこの地域にオスが訪ねてきているのか。しかし、川道武男氏によるとエゾナキウサギは秋に番を形成し、そのまま越冬して、春に繁殖するとされているから、上記の説明はナキウサギの生態からは合理的とはいえないのではないか。

    さらに、秋にもナキウサギの痕跡が確認されていることをどのように評価するのか

  4. 報告書では、この地域のナキウサギの活動を「分散」と表現している。分散とはなにか。どのような意味で使っているか

    例えば、平成13年、15年報告書では、ペンケニコロ川周辺で確認される痕跡について、「現在まだ確認できていない主な生息地から分散する過程で地区周辺に一時的に生息するか」「地区最上流部の主な生息域から既存林道沿いに分散個体が新たな生息域を探し回ってくる際に、一時的に生息するか」「新たな分散域が確保できず止む無くこのような、僅かな生息場所に分散するのではないかと判断される。」などと、検討されている。

    この最後のものは、「分散」というよりむしろ「新たな縄張への定着」であろう。

    春から夏の繁殖期にかけて行われる「分散」とはなにか。夏の終わりから秋にかけてその年に生まれたナキウサギが新たな縄張りを求めて「分散」することは知られているが、それ以外にどのような「分散」があるのか。
  5. 上記に関連して、「一時的貯食」とはなにか春から夏の、周囲に植物が十分ある季節に「一時的貯食」をする理由はなにか。ナキウサギの生態を知った上で、一時的貯食という言葉を使っているのか。

4   データの隠蔽

ところで、平成16年度国有林現況調査業務報告書以降の報告書の72頁の表3.10「ナキウサギの年次別痕跡確認推移」に、前記、平成13年度報告書における10月22日、12月11・13日の痕跡確認結果が掲載されていない。結果のみならず、調査があった事実そのものが載っていないのである。これは調査データの抹殺、隠蔽と言わざるを得ない。 それ以降の過去の痕跡確認箇所を示す全ての図面にも表示されていないのであるから、単なる誤記とは言えないであろう。「本格的な貯食に近い、草本の溜め込みが確認された」と評価された13年10月、12月の貯食を不記載とした理由は何か。不都合な真実であるからか。

5   調査方法への疑問

ナキウサギ調査方法には多くの疑問がある。

その一例として、平成13年度の調査では、調査のため取り出した貯食物を調査後に岩穴に戻していない。(「夏季調査で除去した一時的貯食」「上記と同じ場所に新たに貯食されていた」などの記載がある。)貯植物を取り除いたまま戻さないというのは、ナキウサギの生息に大きな人為的影響を与えた可能性が大きいと考えないか。平成14年以降の調査では貯植物は戻しているのか。それとも取り除いたままであるのか


<3> その他

当初計画の第一回目の変更にあたり、シマフクロウの存在は全く関係していなかったのか。シマフクロウの有無について言及できないなら希少野生生物の生息地の存在という表現でもいいのでこの点を明確にされたい。

2 国有林内の速度は2級林道であれば30kmの制限があるが、実際には工事車両は、狭い林道で、すぐ両脇にナキウサギ生息地が点在する林道を制限を無視して飛ばしている。これでは自然環境への配慮があるとは言えないのではないか。現在、改められたかどうか。

3 ナキウサギ調査のデータ隠蔽疑惑に関して、2009年10月9日から質疑応答を繰り返してきた。2010年3月17日付けで「当方の調査業務報告書における解析については、地域のナキウサギ生息環境の傾向をつかむための参考として、帯広畜産大学との共同調査の解析結果を記載した」との回答があったが、これに関して、以下の点について説明してもらいたい。

アセス会社の平成19年度業務報告書では、評価解析には、@ 森林環境リアライズの19年度の痕跡確認調査結果(61、63、64頁)と、A 畜大との共同調査データとして、パンケ(P5〜P8)の5〜7月のデータ及びつらなり地区のデータを総合して用いたと記載されている(99頁)。

したがって、P4は、痕跡が確認された地点として評価された上で、解析結果が出ているはずである(109〜110頁)。それにもかかわらず、この解析結果が、P4を痕跡が確認されない地点としている、畜大論文の解析結果と全く同じであるのはなぜか。

108頁以降の統計解析において、P4を痕跡の確認がない地点として扱っているのではないか。そうだとすると、報告書の99頁以下はすべて嘘の記載だということになるが、そういうことか。


以上

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